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​三十歳前後(完結)

小説「三〇歳前後」のカバー画像

​三十歳前後。僕は同じ彼女に3回ふられた。1度目は普通に。2度目は突然。そして、3度目はうつ病を克服した彼女が出ていった。僕は何を思えばいいのだろう。僕は何を思えば良かったのだろう。

仙台駅から歩いて7分程度のところにあるホテルで、彼女からのメールを受け取る。仕事を終え、国分町で軽く餃子を食べてホテルに戻り、シャワーから出たところ。23時を少し回ったところ。

 ”別れよう。もうこの家には帰ってこないで”

9月の連休の真ん中に、山の手の西北にある病院へ行く。

 最寄りの地下鉄の近くで小さな花束を買う。何を買っていいかわからないので、店員さんのおすすめの、コスモスとダリアをまとめてもらう。

9月になって彼女のお店で問題が発生した。現場の店長として頑張ってくれていた彼女の友人が、実は会社のお金を不正に使い込んでおり、その上、もうこんな仕事はやってられない、すぐにでも辞めたいと言い出してきた。

あなたは、最後まで、私にとっては必要な人だけど、私は、最後まで、あなたにとって必要な人ではなかった。それは、とてもフェアではないと思う

一人暮らしをスタートして半年が過ぎ、冷たい仙台の冬にようやく春の訪れが感じられるようになってきたころ、僕は彼女がうつ病で入院をしたという話を、同期の友人から聞いた。

秋の午後をなんとなく江戸川橋まで歩く。夏目坂を降りて、早稲田通りを歩き、突き当たりを左に向かう。祝日の神楽坂の下あたりは人が少ない。

開業する前の4月の後半、GWの前に、下田に4日間連泊をした。 吉田松陰に傾倒していた時期で、黒船が来た時、彼が下田の弁天島から小舟を漕ぎ出してポーハタン号に向かったことがとても気になっていて、自分自身をそれにラップさせてみたかった。

夏の中頃になっても、僕は彼女に対して何かを決断するようなことはできなかった。

 その代わりに、仕事で大きな事件を起こしてしまった。

 夏の夕方の喧騒や匂いとは隔離されたようなその一画を、彼女は立ち止まって凝視する。文字通り目を一点に固定させ、瞬きもせずに建物を含むその空間をぎゅっと見つめる。

「誰かがいる」

2分ほどしてから彼女が言う。

春が足早に進み、夏に近づくと、だんだんと震災の影響も薄れ、関東ではおおむね通常の生活が戻ってきた。それに伴い、彼女が神楽坂の家に帰ってこない日が多くなってきた。。

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