
40歳のラブレター

僕にとって、不自由で、不器用で、思い通りにいかないことばかりで、でも、一生懸命で、一途で、綺麗だったこの20年間のあなたへ思いを、僕は、忘れたくないと思いました。だから僕は、書いておこうと思ったのです。書いて、記録して、留めておこうと。 (本文より
今日は風の強い1月の夕方で、僕は会社のパソコンの前に座っています。でも、パソコンはスリープ状態で、買ってきた薄い水色の便箋を机に置いて、これからあなたに最後の手紙を書こうと思っています。
30代の前半の数年間、僕は少し混み入った事情を抱えながら同棲をしていた。
彼女は新卒の時に入社した会社の同期で、新卒研修の時に仲良くなり、入社する前には付き合い始め・・・
春になり、あちこち出かけるようになりました。この季節に出かけると、あなたと言ったところを色々と思い出します。
僕はあなたに電話して、話があるので今から行っていいかと聞き、いいよと言われたので、小一時間くらいであなたの家に車で迎えに行き、あなたを乗せて車で10分くらいのところにある湖に行きました。
大学を出てそれぞれが十数年、お互い特に交わることもなく別な世界を生き、それぞれの道を歩きながら来て、ふとしたことで会ってみると、懐かしい気分とかではなくて、一歩前に進んで来たような気持ちになっていた。
西武新宿線の高田馬場駅の早稲田口を出て、信号を1つ渡ったところにある雑居ビルの3階の居酒屋は、入るとどういうわけか人間の嘔吐物のほのかな匂いがする。
・・・だから、あなたが何かの理由でいないときに感じた違和感、不在感が、僕はあなたに好意を持っているんだと自覚したきっかけだろうと思います。
停滞していた僕の心の前線を大きく押し出すこと契機になったのは、大学4年の夏、菅平での合宿での出来事だった。明確に、前に進まなければ、と思ったのは。
この年の秋の10月に、僕は一人で江ノ島に出かけた。朝、太陽が昇る随分前に家を出て、府中街道を南下し川崎市に入り、第三京浜を横浜へ向かい、環状2号線に出て大船から鎌倉へ入り、鶴岡八幡宮の脇を通り国道134号に出る。
この長い手紙もそろそろ終わりです。ここまであなたが読んでくれているのかわかりません。そもそも、これはあなたに書いているというよりも、僕自身に書いているものです。そんな文章を最後まで読んでくれていることを期待すること自体がちょっとおこがましいようにも思っています。
練習場へのドライブといえば、今でも春になるとあの電波塔の見える街道を、窓全開でタバコふかしながら走りたくなります。(タバコはやめましたが) 知っての通り、僕は始めは、あなたたちの同期のAさんに好意を寄せていました。
何度も何度も、頭の中ではイメージをした。もし僕がここで告白をしたらどうなるか。好きだと言って 、彼女はそれにどう反応するだろう。もしも彼女が僕の思いを受け止めることができなければ、僕は今の毎日を失うことになる。
菅平の深夜2時過ぎは、9月の初旬でもしっかりと冷え込んでいて、さっきまで遠乗りをして帰ってきたばかりの車内は、ひんやりとした空気と人の体温の生暖かい空気とが混ざり合っている。
街道沿いのアパートの一階の部屋は雨戸で覆われていて、昼でも薄暗く、本当は天気のいい春の午後に、一人で、湿った、他の男の布団の中で、猫と一緒に横になり、ウイスキーをストレートで飲みながら、僕はそう思いました。
それでしょうがないし、それでいいのだと。