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40歳のラブレター(2)3度目の正直

  • 執筆者の写真: いのきち
    いのきち
  • 2024年12月23日
  • 読了時間: 3分

40歳のラブレター


 30代の前半の数年間、僕は少し混み入った事情を抱えながら同棲をしていた。


 彼女は新卒の時に入社した会社の同期で、新卒研修の時に仲良くなり、入社する前には付き合い始め、すぐに同棲をするようになっり、28歳の時に彼女が別な男性と付き合うことになり、僕は一緒に住んでいた家から追い出された。けれども、その後1年もしないうちにヨリを戻してもう一度付き合い始めたのだけど、僕が30歳、彼女が29歳の時に、またしても彼女は別な男と付き合い始め、僕は仙台でしばらくホテル暮らしをすることになった。荷物の1つも戻ってこなくて、文字通り着のみ着のままという状態だった。


 そうこうしているうちに彼女はうつ病を患ってしまった。初めは軽く入院という感じだったけれど、入退院を繰り返しているうちに、その付き合っている男性との間にトラブルがあり、自殺未遂を図り、長期間入院をすることになってしまった。

 ちょうど彼女は自分で新しい会社を立ち上げて起業家としても活躍し出した時期で、当然にそちらも大変なことになっていて、僕はそんな状況を聞き知って、放っておくことができず、病院に行き話を聞き、彼女の運営しているお店の手伝いをしたり、資金的な相談に乗ったり、現実的に資金を貸したりした。


 文字通り献身的にフォロワーとして支えて行ったのは、もちろん彼女のことが好きだったこともあるし、でもそれだけでもなくて、彼女の有能さ、優秀さを身をもって知っていただけに、その彼女のバックアップをすることに使命感のようなものを感じていたこともあった。


 退院するまでがなんといっても大変で、僕が別な女の子と旅行に行っている夜中に、今から死ぬ、といって電話がかかってきて、一晩中旅館のロビーで電話をして宥めたりした。おかげでその女の子とはすぐに別れてしまった。


 なんとか退院できてからも、一人で住まわせるのは心配なので、神楽坂のはずれに大きめのマンションを借りて一緒に住むようにした。もちろん、僕に下心はあった。こうしてサポートすることで、彼女の気持ちがもう一度僕に向いてくれるのではないかという期待はあった。けれども、その一方で、僕としても、彼女といつまでも付き合うのは、きっと無理なんだろうなとも思っていた。結局は、彼女は僕に感謝はするだろうけれども、男性としての魅力をもう一度見出すことはないのだろうなと思っていた。


 それでも、彼女の人生は決して彼女のものだけではなくて、7年以上もの時間を一緒に過ごしてきた僕にとっては、彼女は僕の人生の一部でもあって、そんな彼女、バイタリティと能力に溢れる彼女を支えていくのは、僕の役割なんじゃないかと本気で思っていた。下心は3割、純粋な支援の気持ちが7割、というところ。


 そんな彼女は、結局、神楽坂の部屋に一緒に住んでいる間に、しっかり回復した。そして、しっかり新しい男性を見つけ、彼と一緒に住むからということで出ていった。洋服と仕事に関係する本以外は全てを捨てて。


 こうして彼女に三度目の正直を突きつけられて、外苑東通りの見えるベランダでタバコをふかしながら、ああ、女の子ってこういうことしても、全然平気なんだろうなと思った。別に彼女が特別なわけではない。ごくごく自然なことで、何か悲劇のヒーローっぽく思おうとしている自分が滑稽だな、と。



 
 
 

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