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堂々巡りの私たち

  • 執筆者の写真: いのきち
    いのきち
  • 2 日前
  • 読了時間: 5分
90年代最強


グッドモーーーーーーニング トーキョーーーーーー!

イッツ セブン エーエムー!

さあ、今日も時刻は7時!

みなさん、「元気ですかーーー」


水曜日の朝、今日も送り届けます。

あなたの、私の、1990年代!

「Viva 90`S 」

氷河期に青春を過ごした最高世代の男女に送る、

青春のレクイエム!ラジオショートストーリー!!


金融ビッグバン!覚えてる人いますか?

当時は、とんでもないことだったんですよ。

そんな強風の端っこに巻き込まれた女子大生たちのストーリーだぜ!


さあ、いってみよう!


--FM 81.33 T -WAVE--





 センター街から少し離れた大学近くのカフェ「Luna」に、灯里(あかり)は今日もいた。夜の9時。外はすでに冬の匂いがする。彼女の向かいには、いつもの友達、美沙(みさ)が座っていた。


「ねえ、どうしたの、そんなに暗い顔して?」


 カフェラテを啜りながら、美沙が笑う。灯里は口をすぼめて天井を見上げた。


「……別に、落ち込んでるわけじゃないんだけどさ」


「また? 例の彼、連絡ないの?」


 図星だった。

 5ヶ月前に付き合い始めた年上の彼。理屈っぽくて、自信家で、でもときどきすごく優しい。灯里はそんな彼に、少しずつ心を奪われていった。


「うん、電話は何度かしてるんだけどね……」


「気が強いくせに、男に振り回されるの好きだよね、あんた」


「……自分でも、なんか納得いかないんだよね」


 二人は顔を見合わせて、ふっと笑った。


 ストレスはたまっている。ゼミのレポート、バイト、将来への不安。全部、目の前のカフェラテに溶けてしまえばいいのに、と思う。


「ねえ、どっか行かない? 二人きりでさ」


「どこ行くの?」


「星見に行こうよ。夜景とか。車出すから」


 美沙の唐突な提案に、灯里は目を丸くした。


「今から?」


「うん。今夜、全部吐き出そ」


 行き当たりばったりのドライブ。大学二年生の冬、そんな衝動がたまらなく自由に感じられる時期だった。

 


 *

 


 峠道を登った展望台から見える街の灯りは、まるで宝石みたいだった。車のボンネットに腰を下ろしながら、二人はコンビニで買ったコーヒーをあける。


「こんなにカワイイ女2人、世界がほっとくなんて思えないよね」


「うわ、それ自分で言う?」


「思わない? 私たち、結構頑張ってるじゃん。勉強も、バイトも、人付き合いも……」


 灯里は静かに笑った。星空が、少し滲んで見えた。


 心のどこかで、わかっている。彼との関係は長くは続かない。彼は大人で、灯里はまだ「大学生の女の子」でしかない。


 でも、だからといって何もかも投げ出すのは違うと思った。


 *


 一途に彼のことを思う灯里をみながら、美沙は複雑な気持ちになる。


 大手証券会社に勤めて3年目。バリバリのエリート道を走っている彼を紹介されたのは半年前。偶然にも彼は、美沙の大学の先輩だった。そんなことから、3人でいるときも結構話が弾んだ。


 前向きでポジティブで明るい灯里に比べて、引っ込み思案で、いつも一歩後ろに立つ自分を、美沙は、それでいい、と思ってきた。


 けれど。


 今日は、全部吐き出そう、そう思っていたのは、本当は彼女の方だった。彼に対しての想いは日に日に募り、灯里に対しても、彼女の後ろにいればいいとは思えないようになってきていた。


 横須賀の方が明るい。海が見える。小高い山の上に二人で星空を見る。


 灯里とは中学生の頃からの腐れ縁だ。高校も違うし、大学も違う。だけど、こうして、何かがあれば二人で会うし、灯里は何度か彼氏を紹介してくれたりした。


 言いたいことはなんでも言える。いつでも悩みを相談できるし、打ち明けられる。

 そんな二人のはずだった。


 でも、もう、いつまでも待つ身でばかりじゃいられない。

 都会では見えない星空を見ながら、美沙は灯里を方を見る。


 「灯里」


 いつになく強い口調に、少し灯里は驚く。


 「なあに」


 いつものように、少し下の方から見上げるように見てくる灯里の顔は、少し涙ぐんでいた。


 美沙はその顔を見ると、自分のことをスッとしまい込む。そして灯里にいう。


 「海まで走ろう。今日の私たちは、相当壊れてるから。壊れた夜を駆け抜けよ」



 2週間後、彼の勤めていた大手証券会社が破綻した。そのニュースは全国を驚かせた。

 つい数日前には、北海道の大手銀行が破綻した。この年の4月に3%から5%に上げられた消費税の影響が、いろいろなところに出始めていた。



 灯里が美沙に電話したのが21時過ぎ。だけど、美沙はすぐにいつものカフェに駆けつける。


 灯里は、自分を責めていた。

 連絡がつかないのは、仕事が本当に大変だったからなのかもしれない。だけど、そんなことを思いもせずに、嫌味を言ったり、拗ねてみたりした。駆け引きのつもりで。


 「でも、本当のことを知らなないのは、彼ではなく私だった」


 灯里の話を聞きながら、美沙は思う。


 私は知っていた。彼の会社が大変なこと、もしかしたら、彼自身も人員整理の対象になるかもしれないこと、そして、会社を辞める可能性を考えていること、美沙はそのことを、灯里が席を外している時に聞いていた。


 「灯里には、こういうの、まだ重いから」


 でも、灯里には言わな買った。言えない。そして、言いたくない。

 いつまでも、いい子でいるわけにはいかない。

 

 だからと言って、私たちの関係が変わるわけではない。私たちは最強の二人だから。いろんなことに一喜一憂しながら一緒に生きてきた。

 

 堂々巡りのわたしたちでいいじゃないか。


 「灯里、カラオケ行こ。ガンガン歌おう」


 そう言って、二人は深夜23時のセンター街を歩いていく。


 TSUTAYAの明かりが通りを照らし、VHSのレンタルビデオを抱えた若者が店から出てくる。隣のカラオケボックスからは、LUNA SEAやBOØWYの曲が漏れ、誰かが熱唱する声がガラス越しに響く。酔っ払った大学生たちが千円札を握りつぶしながら何かを叫んでいる。


 センター街の奥に進むと、怪しげなスカウトマンが二人に声をかけてきたり、黒服の男がクラブのチラシを押し付けてきたりするる。DQNと呼ばれる不良たちが、改造バイクのエンジンをふかして通りを走り抜け、排気音がビルの谷間に反響する。


 いつもの渋谷の夜の喧騒が、二人の心を妙に落ち着かせる。


 「とりあえず、明日考えよう。今日は歌うよ」



渋谷だぜ?VHSだぜ?DQNだぜ!

もう一度あの90年代の喧騒をみにあびたくないか!!??


もちろん、今日かけるのはこの曲だ。もうわかってるだろ??





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