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ピュア

  • 執筆者の写真: いのきち
    いのきち
  • 9月29日
  • 読了時間: 5分
90年代最強


グッドモーーーーーーニング トーキョーーーーーー!

イッツ セブン エーエムー!

今日も時刻は7時!

もう10月だぜ、おいおい、どうする、どうするーー


水曜日の朝、今日も送り届けます。

私の、あなたの1990年代!

「Viva 90`S 」

氷河期に青春を過ごした最高世代の男女に送る、

青春のレクイエム!ラジオショートストーリーだぜ!!


8cm CD覚えてるかい?

何枚持ってるんだい。みんなは。まだ持ってるかい?

短冊CDの貸し借り、したよな?好きな子にCD貸したりしたよな??

たった2曲。たった2曲しか入っていないCDを1000円握りしめて、CDショップに行ったんだぜ。信じられるかい?

手触りがあったんだよな。音楽に。自分の手の中にある感じが。


そんなピュアな心の物語さ。


--FM 81.33 T -WAVE--





 私の名前は有希、16歳。

 高校1年の秋、教室の窓から見える夕焼けは、まるで心をえぐるように赤く滲んでいた。

 毎日同じ。

 友達と笑って、部活で汗を流して。でも、どこかでいつも胸が締め付けられるような空っぽな感じがあった。そんな私の世界に、突然、陽が現れた。


 陽は転校生だった。サッカーのユースチームの選手で、来年スタートするJリーグでのプレーを目指しているらしい。その関係で早い時は数ヶ月で引っ越したりするらしい。

 少し長めの黒髪、透明なガラスのように揺れる瞳。静かだけど、笑うとまるで子供みたいな光がこぼれた。クラスの女子たちは彼の存在とキャリアを知って大騒ぎだったけれど、私には関係なかった。

 なのに、たまたま隣の席になった彼の存在が、なぜか私の心をざわつかせる。


「有希、放課後、図書室行かない?」

その一言で、私の心は一瞬で崩れた。


 びっくりして、ただ「う、うん」と頷くのが精一杯。

 図書室の静寂の中で、陽が英語の参考書を手に取る。ページをめくる音が、まるで私の心臓の鼓動と重なった。

「海外に行くかもしれないから、英語の勉強をもう一度頑張ってるんだ」

彼の声は柔らかくて、温かくて、胸がぎゅっと締め付けられた。


 言いたいこと、たくさんあった。なのに、いつも喉が詰まって、言葉がこぼれ落ちる。

「うん、そうなんだ…」

それしか言えなかった。もうバカみたいに。


 それから、陽との時間が私の全てになった。


 校庭の隅で他愛もない話をして、帰り道で夕陽を見ながら歩いて、夜には電話で10時半過ぎに4、5分だけ話をする。陽は私のつまらない話をちゃんと聞いてくれて、時々ふざけて笑わせてくれる。私にとっては、その5分間は、生き甲斐そのものだった。


 彼の笑顔を見るたび、心が熱くなって、でも同時に怖かった。

「こんな幸せ、いつか壊れるんじゃない?」

「陽が私のこと、ほんとに好きじゃなかったら?」

ふとした時に、そんな考えが頭をぐるぐるして、私は無意識に一歩引いてしまう。愛されているなんて信じられなくて、いつもおびえていた。


 クリスマスイブには近くの映画館に行き「ホームアローン」を見にいく。百貨店の8階の、今お思えば小さなシアター。だけど、その時はとても大きな映画館に思えた。温かくて心から笑える話だった。

 帰り道にはイタリアンレストランでパスタとピザを食べながら、8cmのCDを貸し合う。彼は「愛は勝つ」。私は「ラブ・ストーリーは突然に」。二人でCDを交換しあって、感想を伝える事にした。


 新しい年になった。

 雪がちらつく校庭で、陽が突然言った。

「俺、春になったら引っ越す。北欧のサッカーチームの練習に参加するんだ」

心が凍った。頭ではわかっていた。いつか終わりが来るって。でも、こんなに早く、こんなに冷たく突きつけられるなんて思わなかった。

「そっか…。それって、すごい事なんだよね?」

恐る恐る聞く。心の揺れを悟られないように。だって、陽にとっては素晴らしい事なのに、私が悲しんでいたりしたら陽に悪いから。

「海外だぜ!絶対成長して、Jリーグでプロ契約取るんだ!」

力強い陽の言葉に小さく頷く私。



 声が震えて、涙が滲みそうだった。

 上機嫌だった陽は、私の顔を見てハッとなる

「ごめん。有希。でも、そんなに長くなく帰ってくるから」

 その言葉が、ナイフみたいに胸を刺した。


 それからの日々、私は陽との時間を必死で掴もうとした。

 放課後の教室で、寒い空の下で、ぎこちなく手を繋いだ夜。心から笑い合った瞬間もあった。

 

 でも、はっきりと気持ちを伝える勇気はなかった。

「好きだよ」「ありがとう」「ずっとそばにいたい」――そんな簡単な言葉さえ、喉に絡まって出てこなかった。陽の未来に向けたキラキラした瞳に気づかないふりをして、ただ笑顔でごまかした。


 本当は、全部言いたかった。心の底から叫びたかった。なのに、いつも泣いてるだけで、言葉にならなかった。


 出発前の最後の登校の日にはクラスで送別会があった。雰囲気は、送別というよりは壮行会という雰囲気で、陽の門出を祝うという感じだった。


 その日の帰り。校門を出て2つ目の交差点に陽が待っていた。

「これ、俺がいなくなってから開けて」

彼の声は低くて、どこか震えていた。

 私はただ頷いて。胸が張り裂けそうだった。サヨナラさえ、ちゃんと伝えられなかった。

「陽、ごめんね…」

心の中で呟いたけど、声にはならなかった。


 陽が去った後、ひとりで手紙を開いた。そこには、たった数行の言葉。

「有希、君に会えてよかった。きっと、ずっと忘れない。帰ってきたらすぐに電話する」

涙が止まらなかった。手紙を握り潰して、声を殺して泣いた。

 あの時、ちゃんと伝えていれば。好きだ、会えてよかったと、抱きしめて叫べていれば。後悔が胸を焼き尽くした。

「ごめんね、陽。逃げてばかりで、ごめんね」

言えなかった言葉が、今さら溢れてくる。


 彼からの手紙に添えれられていたのは「SAY YES」の8cm CDだった。

 急いで、だけど優しく、そして丁寧に、丁寧にビニールのカバーを取り小さな輪っかを取り出して、チェンジャーに入れて少し長めの黒いイヤホンを繋ぐ。ボリュームは最大にする。


 目をとじる。




もう、グッとグッとグッときてたまらない

みんな名曲ばかりだけれど、このストーリー自体が、この曲が元になっているんだぜ。


行ってみよう。キョンキョンだよ!


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