熱量
- いのきち
- 10月8日
- 読了時間: 5分

グッドモーーーーーーニング トーキョーーーーーー!
イッツ セブン エーエムー!
今日も時刻は7時!
ちょっと今朝は寒かったです。でも、そんな寒さを、みんなの熱量で吹っ飛ばせ!
水曜日の朝、今日も送り届けます。
私の、あなたの1990年代!
「Viva 90`S 」
氷河期に青春を過ごした最高世代の男女に送る、
青春のレクイエム!ラジオショートストーリーだぜ!!
1990年代の後半は確かに就職難だったんだよ。
大学でても就職できない人たちがたくさんいたんだ。
でも、何かが違うんだよな。今と。なんだろう?
そこにある、人生への熱量、みたいなのが。
ちょっと苦しい、就職に苦しむ彼の、でも、熱い、熱いストーリーだぜ!
--FM 81.33 T -WAVE--
暗い部屋の隅に、薄暗い液晶の光が揺れていた。
テレビはつけっぱなし。音量は小さく、アナウンサーの声がざらついた空気の中にかすかに響いている。
智洋はベッドの上に体を投げ出したまま、天井を見ていた。
時刻は深夜二時。眠気は来ない。頭の奥に、こびりついたような重さだけが居座っている。
——また、今日も何も決まらなかった。
就職活動を始めてもう二年近くが過ぎようとしていた。
大学を卒業してからの月日はあっという間だったはずなのに、自分の時間だけがどこか停滞している。友人たちはそれぞれ会社に入り、飲み会がどうだの、合コンがどうだのという話をしてくる。同期だとか上司だとかの愚痴をこぼしながらも、確かに社会の一部になっていった。
智洋は、取り残されていた。
部屋の窓の外では、冷たい雨が降りしきっていた。アパートの古い屋根を叩く雨粒の音が、かえって静けさを際立たせる。街灯に照らされた細い路地には誰もいない。ただ、雨に打たれるアスファルトが黒々と光っていた。
「……俺は、何をやってるんだろうな」
小さく漏らした声は、自分の耳にさえ弱々しく聞こえた。
エントリーシートを文字通り何百枚も書いた。面接にも何度も足を運んだ。
けれど結果は、いつも「お祈りします」の一文だった。
最初は落ち込むたびに立ち直ろうとした。
しかし、回数を重ねるうちに、挑戦する気力そのものが削れていった。
「自分には価値がないのかもしれない」
そう思うときが増えていた。
テレビから、どこかの国で飛行機が墜落したというニュースが流れてくる。キャスターは深刻そうな顔をしていたが、どこか演技がかっているように智洋には見えた。
「乗客に日本人はいませんでした」
その言葉を聞いた瞬間、キャスターの口元に浮かんだ、ほんのわずかな無責任の色が気にさわった。
そうじゃないだろう、と思う。でも一方で、いや、そうなんだ、と思う。
人の命だって、結局は選別されているんだよ。
飛行機事故で亡くなったのが日本人でなければそれでいいのか? 200人が亡くなっても、そこに日本人がいなければ「良かった」と思っていいのか?
俺は、この200人の方だ。いなくなったところでどうでもいい、この社会と無関係の200人なんだ。たとえ命を落としても、世の中とは無関係の、命がなくなったことなど考慮に値しない200人の方なんだ。
決して裕福な家庭ではなかった。
父親だけでなく、母親もパートに出て、2人の子供をなんとか私立の大学にいれ、卒業まで何不自由なく暮らさせてくれた。だけど、在学中に就職は決まらず、卒業後も1年経とうとするけれども、どこにも就職することができない。いつの間にか、社会と無関係の人間になってしまった。
一瞬、怒りと申し訳なさが同時に沸騰する。感じたことのない熱さが体を走る。右手をぐっと握りしめる。その拳をどこかに叩きつけたい気持ちになる。
「……だから何だよ」
智洋は吐き捨てるように呟いた。
誰かの死や絶望さえも、自分の日常にはまるで届かない。外の世界は途方もなく大きく、自分はその片隅で透明になりかけていた。
時計の針が三時を過ぎたころ、智洋は起き上がって机に向かった。
引き出しからノートを取り出し、シャープペンシルを握る。
何を書けばいいのか分からないまま、とにかく言葉を並べた。
「就職できない」
「未来が見えない」
「友達はみんな働いている」
「親に顔向けできない」
乱雑に並べられた文字は、どれも同じ不安を言い換えているだけだった。
書き殴ったページを見つめていると、涙が滲んできた。
悔しさか、情けなさか、自分でも分からない感情が胸を締めつけた。
「俺は……必要ないのか」
その問いに、答えは返ってこなかった。
夜がしっかりと白んでくる。雨がようやく上がった。
窓を開けると、冷たい風が部屋に流れ込む。
湿った匂いとともに、街の向こうにわずかな光が差していた。新聞配達のバイクの音が騒々しく響く。
智洋は外に出る。1階の玄関に降りて郵便ボックスの中の新聞をとる。
その新聞の下に、1通の白い封筒が入っている。裏を見ると大学時代の友人の名前があった。
「元気か? こないだの会社、まだ募集してるって聞いたよ」
「智洋、お前は大丈夫。お前は俺らの仲間だから」
近況が簡単に綴られた文章に、最後に一言書かれているその内容に胸の奥に小さな火が灯るのを感じた。
「……まだ、終わってない、よな」
そう思った瞬間、久しぶりに体の中に力が戻ってきた気がした。
ノートのページを新しくめくり、ペンを握り直す。
震える手で、今度は違う言葉を書いた。
「諦めない」
「もう一度挑戦する」
「俺はまだやれる」
文字は不格好で、弱々しい。
けれど確かに、智洋自身の声だった。
夜が明け、窓から差し込む光が部屋を照らし始めた。
雨に濡れた街路樹の葉がきらきらと輝き、アスファルトからは湯気が立ち上っている。
智洋はカーテンを大きく開け放った。
心臓の鼓動が少しだけ早くなる。
「気合い、がっつり入れてこ」
大学時代の試合の前の掛け声だ。声に出すと、不思議と力が湧いた。
履歴書とエントリシートを机の上に開く。いつもは憂鬱な気持ちになる時間が、今日は希望のキャンパスに見える。
指がゆっくりと動き始める。
「氏名」「住所」……淡々と記載する作業が、未来への小さな一歩に思えた。
——きっとまた落ちるかもしれない。
——それでも、何度でも立ち向かってやろう。
夜の孤独と涙の底で、そう誓ったから。
なあ。人生は熱さだぜ!苦しい時ほど、熱く、熱く、生きようぜ! 音楽が、友達が、そんな俺らを支えてくれる
もうわかってるよな。今日はこの曲だ!
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